古本ソムリエの日記

古書善行堂 山本善行

祭りのあと

zenkoh2007-08-18

 昨日のこと。
 多くの古本屋さんは、下鴨が終わったところで、閉まっている。下鴨に参加していない店をめあてに家を出た。坂口安吾『吹雪物語』(新体社、東郷青児装幀)500円、『岩波月報』(昭和13年、1月号)200円。これは「図書」になる前の、岩波PR紙だ。昭和12年の新刊案内の小冊子も挟み込まれていた。
 「全適堂」の前のワゴンをみると、彷書月刊のなかに、「スムース」が3冊あった。100円だったので迷わず購入する。「洲之内」「甲鳥書林」「あまカラ」の三冊。
 店主が「値打ちあるんですか」
 ぼく「値打ちはどうかわかりませんが、ぼくももう2、3冊しか持ってないんで」
 ガケに寄って、いろいろ話す。下亀も盛況でたくさんの人に来ていただいたとのこと。今日は、友部正人さんもご来店。よかったよかった。毎年の恒例になればいい。
 忘れていたわけではないが、「中央公論」の原稿の締め切りが迫っている。5000字なので、ぼくの筆力だと、1日では無理だろう。今日、明日で、仕上げよう。
 中桐文子『美酒すこし』を読み始める。詩人、中桐雅夫夫人の回想記なのだが、鮎川信夫の解説(見事)のなかで述べられているように、この『美酒すこし』は、「強い辛口の酒」である。
 中桐文子さんは、若手ピアニストと結婚、7ヶ月で離婚、そのあと中桐雅夫と再婚したのだが、そのときどきの彼女の行動、思考に個性を感じた。
 中桐雅夫に向けられた眼は、きっと彼女のこころにも向けられたにちがいなく、そんなことを感じながら読むと、読む方のこちらも、強い酒をぐっと一息に、というわけにはいかなかった。
 中桐文子さんは、「あとがき」の最後にこう書いておられる。
 ーーーだが娘の泰子だけは、この本を読んだら悲しそうな顔をして黙りこんでしまうだろうと思う。ごめんね、泰子。ーーー
 人間の孤独ということについて考えさせられる名著だと思う。下鴨で出会えてよかった一冊。