古本ソムリエの日記

古書善行堂 山本善行

日常生活を離れるための美しい船

 いつもより、ちょっと早めに、マルギン前100円均一棚の前に着いたら、あーすさんがもう4、5册抱え込んでいた。「早いじゃないですか」「いやいやそんなこと…」。ということはいつもこの時間なのだろうか。持っておられる本は見ないようにして、裏にまわる。欲しい本だと悔しいので。
 芥川比呂志のエッセイ集、『肩の凝らないせりふ』『決められた以外のせりふ』があった。どちらも素晴らしいエッセイ集だ。そのほか、野坂昭如『文壇』、三國一郎『鋏と糊』、山本夏彦『室内40年』。
 水明洞にまわり、菊池寛『新女大學』(昭和13年、岩田専太郎挿画。婦人倶楽部附録)。
 中村真一郎の『小説入門』を読んでいると、江戸川乱歩の言葉が引用してあった。「日常生活を離れるための美しい船」というのは、ことば、文章、活字のことだろう。江戸川乱歩はときどき読み返したくなる作家だ。
 乱歩は書き出しが見事で、いつも知らないうちに美しい船に乗っている。