古本ソムリエの日記

古書善行堂 山本善行

第五回四天王寺春の大古本祭り

 10時丁度に、100円均一台の前に到着したが、もうすでにレジに並んでいる人がいた。「10時開店とちがうのですか」と聞きにいきたいところだが、そんなことをしていたら、ますます出遅れてしまう。
 相変わらず100円均一台は人気があり、なかなか前列に入り込めない。手をのばして、漱石の『心』の縮刷本を抜き出す。すごい、函もあって天金も鮮やかで状態もいい。大正15年、61刷、漱石の装幀本で、木版の刻は伊上凡骨である。気持ちとしては、もうこの一冊でもいいのだが、このまま帰るわけにはいかない。他の店が気になるので急いで見て行く。それでも立ち去りがたく、長方形の長いほうの一辺を行ったり来たりして以下の本を買う。
 夏目漱石『心』 ヘンリ−・ミラー全集『わが読書』、谷川俊太郎詩集『コカコーラレッスン』、藤澤桓夫『朝の歌』(三島書房)、長田弘詩集『深呼吸の必要』、蓮見重彦『凡庸さについてお話させていただきます』、萩原朔太郎詩集を4冊、これは戦後すぐ小学館から出た簡単なつくり(恩地孝四郎装幀)のもの。NHK人間講座、粟津則雄『自画像を描くまなざし』
 会場を今年はどこがいいかと見て回る。人だかりでもわかるし、長年のカンのようなものも役に立つ。うまい具合に、尚学堂の前に出た。200円均一コーナーが展開されて見事だ。すると店主が「いい本ありそうですよ」と目の前に箱を持ってきてくれる。最近買い取った本で、本好きの人だったらしく、そのまま箱に詰めてこの古本まつりに持ってきたのだという。箱のなかを見ると同時に手が伸びていた。その速さに自分でも驚く。若山牧水『行人行歌』(大正4年再版)、近藤浩一路『漫画吾輩は猫である』(大正14年改版)これには驚いた。龍星閣から戦後に出た本はときどき見るが…。下村千秋『天国の記録』の装幀は、竹中英太郎だ。他に、吉野孝雄宮武外骨』を手に持って見ていると、店主が、「こんなんどうです」と、坂口安吾の『狂人遺書』を持ってきてくれる。安吾の死後すぐに出た本ではなかったか。もちろん買わせてもらった。
 ここまで書いてきて、今日は大人しくしておこうと思っていたが、じっとしてられなくなってきた。やっぱ、今日も四天王寺に行こう。