古本ソムリエの日記

古書善行堂 山本善行

金子彰子詩集『二月十四日』

 中央公論の校正、そして8行分付け足す。これで手が離れた。
 詩人の阿瀧康さんから、一箱古本が届く。ありがたいことである。
 古本倶楽部も届く。一冊、4725円の本を注文しました。さて何でしょうか。
 左京区役所に行く用事がありました。さて何でしょうか。
 詩集が届いているかも、と思い善行堂に寄る。今日は休みでした。
 届いてました届いてました。金子彰子詩集『二月十四日』。やっぱりね。出来たら急ぎますね自分の作品なんだから。
 左京区役所の古いベンチに座り読み出す。やはりパソコンの画面で読むのとはちがう。
 左京区役所で、言葉でしか味わうことができないだろう、そんな世界を感じました。
 名前を呼ばれて、現実にもどりましたが、貴重な時間でした。
 いい詩を読んだあとの気持ちよさでした。
 
 コンフィチュール



 関心をつないでいくことをとかく忘れがち渾身の力でねじっても頭蓋骨の蓋が
 はずれないから手首を痛めてもうあきらめた

 
 郵便受けは黙っている
 電話はつうじないし


 たまに見慣れた字の葉書が赤い刻印と共に却ってきて一度もった権利は20年の
 間に消えたとアナウンスするが

 煮詰まった蜜柑の皮をほおばって聞こえないふりをしてひのべする こんなに
 苦くたって食べられるもんだね



 マルク


 あの時に
 涙は涸れたらしい



 古本屋有時書房の裏は
 もう駐車場だ
 おまえが降りられなくなった柿の木は残ってるけど



 スポイトでミルクを与えた日々
 お前はメロンが好きだったっけ
 牛のような模様だったが
 瓦に寝ころべば
 しなやかで
 いいおんなだったよ



 一緒の布団で
 寝たのは一年もない
 パルポで
 三日の命だった



 あの時に涙は涸れてしまったらしい
 足音を聞きつけてお前が迎えてくれるような
 春






 うた




 焦点の合わない憎しみは
 突拍子もない危機の肩を
 押して
 上空を曇らせている
 背を秒針で打たれながら
 塵芥のような滓を吐くように叫べば
 誰かへの支えが生まれないかと思う
 角のあるままの
 苦味のある
 粒粒をとりだして
 さかむけだらけの
 革袋で醸しているところ
 すっぱい酒に
 なるやもしれないが