古本ソムリエの日記

古書善行堂 山本善行

CABIN9号

 中尾務さん発行の雑誌「CABIN」が面白い。ガケ書房で入手できるが、どこよりも早く仕入れるようにと明日アドバイスしに行こうか。今回も充実した内容であった。
 山田稔が前田純敬(小説『夏草』が芥川賞候補)のことを書いている。このエッセイが面白いのは、山田稔しか知らないこと、書けないことが内容の大半を占めているからだろう。少なくともそれも一要素。手紙のやりとりを通して前田純敬という男の奇妙な個性を描いている。その描き出す「腕前」はやはり確かなものだと思った。
 前田純敬の『夏草』は最近前田の郷里、鹿児島の出版社から出たのではなかったか。中尾務は富士正晴のこと、内堀弘(もうすぐ目録来そうな予感)は、古本屋大塚書店のこと、扉野良人加能作次郎のこと、矢部登は結城信一のこと、松本八郎は蒐集癖回想。
 今日はもう一冊面白い雑誌に出会った。集英社のPR雑誌『青春と読書』で、表紙には、集英社文庫創刊30周年記念号とある。無料なのもうれしい。一冊まるごと集英社文庫特集である。最近の集英社文庫のラインナップには不満があるが(池内紀の『作家の生きかた』は買った)、かつてはいい文庫を出してくれた。野呂邦暢の『一滴の夏』『鳥たちの河口』『水瓶座の少女』、和田芳恵の『暗い流れ』『接木の台』、開高健の『生物としての静物』、栃折久美子『装丁ノート製本工房から』というのもあったな。それにすごいのは、ラテンアメリカ文学の数々。とにかく集英社文庫もすばらしかった。
 この記念号は今あげたようなところはあまり触れずに作られているのが残念だけれど、「装丁リニューアルこぼれ話」だとか「座談会疾風怒濤の創刊前夜」とかはなかなかよかった。巻末の索引には驚き感心した。
 とにかく2、3册は持っておきたいと思うような出来ばえになっている。
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